誘惑はいつも、炭水化物の顔をしてやってくる。


努力の成果がようやく見え始めた。
ベルトの穴がひとつ縮まり、鏡の中の自分が少し引き締まって見える。
だが、その成長はあまりに儚い。
数字はすぐに動かなくなり、体重計の上で毎朝祈る。
「頼む、昨日よりマイナス0.1kgでもいい」。
けれど、デジタルは無言で裏切る。

そんな時に限って、世界は炭水化物でできている。
会社の差し入れドーナツ、駅前のパン屋、
同僚の「ランチ行こうぜ」。
誘惑はいつも、笑顔で近づいてくる。
「今日はチートデイ」とつぶやきながら、
気づけば“チートウィーク”に昇格していた。
一瞬の幸福と引き換えに、努力がリセット。
「明日から本気出す」またしても敗北宣言。
体重計が反抗期を迎え、数字が見たことない高さを記録した。

夜、ため息と一緒に昔の写真を見た。
スーツが似合っていた頃の自分。
少し姿勢がよくて、顔も引き締まっている。
「もう一度この服を着たい」
その一言で、どこかに火がついた。

翌朝、コンビニのパンコーナーで立ち止まり、
クリームパンと目が合う。
「君の優しさは罪だ」とつぶやきながら、
私は素通りした。ほんの小さな勝利。
大げさな気もするが、目が合ったクリームパンを
素通りしたのだ。これは確実に勝利した。
誰も見ていないけれど、心の中で拍手が聞こえた。
「YOU WIN」

挫折は誰にでもある。
でも、再起する力も誰の中にもある。
炭水化物はうまい。けど、達成感も負けてない。
次こそ、ちゃんと笑って終わらせよう。
笑って終わればそれでいい。




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